私も聴き方・伝え方の難しさに頭を悩ませてきた一人です。
私の母は、否定・批判が癖になってしまっている人で、何を話しても返ってくるのはこんな言葉ばかりでした。
「いや、あんたがおかしい」
「でも、あんたには無理よ」
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「傷つくなあ…どうしてそういう言い方するんだろう」と何度思ったかわかりません。
しかし、中学生、いや高校生頃だったでしょうか、いつの間にか自分自身も似たような言葉の使い方をしていることに気づきました。
母ほどの否定っぷりを発揮することはなくとも、「でも」とか「いや」とか、相手を批判するニュアンスの言葉を第一声として使うことが癖になっていたのです(その当時はほぼ無意識でやっていたのですが)。
無意識とはいえ、常に相手に対してちょっとした否定をしているわけなので、嫌な思いをさせてしまった人も結構いるだろう、と今更反省しています。
同時に、自分のほうにも違和感があったのです、当時。
なんか違うんだよな、と。
本当は、否定なんかしたくないのに。
なぜか反射的にやってしまう、と。
それでも、若い頃は目の前のことに精一杯でしたし、話し方を変えよう、とまでは頭が回らず。
年齢を重ねるにつれ、なるべく目の前の人を否定したくない、という気持ちが強まってきました。
否定しないことを意識するだけでも、だいぶ改善したとは思いますが、いまだに「こういう時は何と言ったらよいのだろう」と迷うこともあります。
そこでこの本を手に取ってみました。
戸田久実,岩井俊憲『アドラー流たった1分で伝わる言い方』かんき出版(2014)
どんな本?
本書はアドラー心理学の考え方をもとに、よりよい伝え方・言い方とは何か、を教えてくれる本です。
まずアドラー心理学で扱う用語の解説から始まり、聴き方・言い方について、具体例を交えて解説されています。
もくじをざっと見て、「そうそう、こういうの困ってた」というところから読めるので、時間がない人にもおすすめ。
以下、個人的に「これは覚えておきたい」と思ったところです。
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共感して聴く、とは
共感が大事であることはよく言われます。
私自身も共感してほしいタイプですし、相手に対してもできるだけ共感して差し上げたい。
しかし、以前の私は「共感」について勘違いしている部分がありました。
あえて強烈な書き方をすると、「共感とは、ひたすら相手に迎合すること」だと思っていたのです。
自分と相手が同じ意見なら問題ないのですが、相手の考えと自分の考えがあまりにも違うときなど、「私は違う意見なんだよな……でも言ったら否定することになってしまうかな。でも受け入れるのも抵抗があるし」と困りがちでした。
結局、我慢できずに自分の考えを言ってしまったりして、相手も自分もモヤっとなったり。
でも、意見が違ったって、共感はできるのです。
「共感して聴く」とは、「おっしゃるとおりです」と受け入れることではなく、「○○と思っているのですね」と受けとめて聴くことです。
引用元:戸田久実,岩井俊憲『アドラー流たった1分で伝わる言い方』かんき出版(2014)p.72
「本心から受け入れる」ことが共感には必須だと思っていると、「え、そんなオウム返しみたいなことでいいの?」と思いますが、実はこれが一番効くんですよね。
親しい人にグチをこぼすとき、「こうすればいいじゃん」などと言われるよりも、「○○と思っているんだね」とか「大変だったね」と言ってもらうほうがはるかに楽になりますものね。
受け止めてもらえたと思うと、嘘みたいに愚痴が止まるから不思議です。
原因追求するような聴き方は避ける
家族が思い通りに動いてくれないときなど「なんでそんなことするの!」「なんで○○してくれないの!」を使いがちではないでしょうか。
もはや定型文のひとつのように。
そもそも、思い通りに動いてほしいという傲慢な気持ちはよくないと頭ではわかっているのですが、家族や親しい間柄の人だと、甘えが出てしまうときってありますよね。
「なんで○○するの!(orしてくれないの!)」だと相手を追いつめてしまうので、理解しようとするスタンスで聴くことが大事。
たとえば
「そうしようと思った理由を教えて?」
引用元:戸田久実,岩井俊憲『アドラー流たった1分で伝わる言い方』かんき出版(2014)p.81
問うていること自体は「なんで○○するの!」と同じなのに、相手を尊重している感じが漂ってきます。
これなら文句の言い合いを避け、話し合いにつながりそう。
関連しますが、意見や気持ちを伝える時には、相手ではなく「私」を主語にすることも大切だそう。
「私は△△さんに、○○してほしいの。なぜかというと…」
引用元:戸田久実,岩井俊憲『アドラー流たった1分で伝わる言い方』かんき出版(2014)p.96
言われる立場に立ってみると「なんでやってくれないの!」ではますますやりたくなくなりますが、引用したような言い方だと、少なくとも話をきいてみようかくらいには思いますね。
感情を伝える
(母の話ばかりで恐縮ですが)私の母は感情的に怒り狂う人でした。
感情的になると、かえって自分の言いたいことが伝わらず、むしろ相手の怒りを誘発するらしい、ということを目の前で幾度も見てきました。
なので、子供の頃から感情的になるのはよくない、損だ、恥ずかしい、と思って感情を抑えがちでした。
その結果、大人になっても、感情を抑えてしまうクセが抜けません。
一番困ったのは「それは嫌です」とか、言うべきことを言えないこと。
いったん言い出したら母のようにわめいて騒いでしまうのでは、と怖かったのもあります。
しかし、そうやって感情を抑えていると、「この人には何を言ってもいいんだ」と思われたり、「どうせ何も言い返してこないから」と都合良く扱われたりするのです。
心のしこりを大きくしないためには、くどくど言わずに、短い言葉で、「私はショックです」「悲しいです」「つらいです」と、そのときに自分の気持ちに合った言葉を伝えましょう。
引用元:戸田久実,岩井俊憲『アドラー流たった1分で伝わる言い方』かんき出版(2014)p.130
自分の気持ちを一言だけなら、感情的にならずとも、なんとか言えそう!
上記以外でも実際問題として困ったのが会社での面談のとき。
半期の成果を上司が評価して「あなたの今期の評価はコレ」と言ってくる面談がありました(評価が毎月のお給料にもボーナスにも直結するシステム)。
評価が不満ならそこで意見を表明することも一応は可能です。
しかし、お金をもらっている以上、ひたすら迎合するしかない、と考えていた私は、「こんなにがんばっているのになんで……」と思いつつ「はい、わかりました」と言う以外なかったのですが。
次のように言えばよかったんですね。
もっと早く読みたかった…。
「一生懸命頑張ってきたので、この評価を見てとても悲しく感じます。この評価の理由を教えてください」
引用元:戸田久実,岩井俊憲『アドラー流たった1分で伝わる言い方』かんき出版(2014)p.99
今後使う機会があるかはわかりませんが、頭の片隅に置いておこうと思います。
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干渉してくる人に対して
「~するべき」と、何度も何度も強く言われていると、だんだん自分が間違っている気がしてきて、つい相手に迎合していました。
しかし、そうやって生きていると、干渉してくるタイプの人が周りに集まってきて、ますます苦しくなる(実体験)。
すると、自分自身も、「やり返してやる!」みたいな気持ちになってきたりして、踏み込んでしまったりするんですよね(反省)。
最近になってようやく「あなたはそう思うんですねー」「○○さんはそういう考えなんですねー」と流せるようになったところです。
他にもいくつか防御ワードを用意しておきたい。
と思っていたところ、本書では次のような伝え方が紹介されていました。
「申し訳ありません、これは私の問題なので私自身が決めたいことです」
「このことに関してはこれ以上言わないでいただきたいのです」
引用元:戸田久実,岩井俊憲『アドラー流たった1分で伝わる言い方』かんき出版(2014)p.105
「ひどい!」とか「なんでそんなことを言うの!」と反応すると、相手も余計必死に主張してこようとするのですよね。
「あなたはそう思うんですねー」で食らいついてくる人がいたら「これは私の問題なので」を使おうと思いました。
おわりに
上記以外にも、会議での意見の伝え方や、部下の叱り方など、「ああ、そう、これ、困るんだよねえ」というときに使える言い方が本書にはたくさん載っています。
言い方を工夫したからといって、相手によっては伝わらないこともあり得るとは思いますが、もし言い方を変えるだけで関係が円滑になるのだったら、こんなお得なことはないと思いました。
試してみる価値は大いにあるのではないでしょうか。
『アドラー流 たった1分で伝わる言い方』戸田久実/著 岩井俊憲/監修 - かんき出版
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