足かせは外すことにした

親の呪いを解いて自分の人生を生きる

一生心に持ち続けることのできる資産は「記憶」|感想『Hello!! Work』

ミナペルホネンといえば、生地やデザインの秀逸さに加え、「セールをせずに長期的に売る」というスタンスも共感を呼び、人気のブランドですよね。

それなりにお値段がはるので、私はまだ購入したことがないのですが、雑誌などで見てかわいいなあ、とは思っていました。

そんなミナペルホネンを立ち上げた皆川明氏の仕事に関する書籍を見かけたので、読んでみました。

川島蓉子、皆川明『Hello!! Work 僕らの仕事のつくりかた、つづきかた。』

Hello!! Work 僕らの仕事のつくりかた、つづきかた。

Hello!! Work 僕らの仕事のつくりかた、つづきかた。

 

 

どんな本?

インタビュー形式で展開されていくタイプの本(聞き手:川島氏)。

皆川氏がやってきた仕事と、そこに込められている視点は、我々にも参考になる部分があるのでは、という意図の本。

サイクルのはやいファッション業界において、「長期間売り続ける」とか、昔の商品を復刻するとか、働く人に年齢制限がない、とか。
これまでの慣習からすると、ミナペルホネンの方針には驚くことがいろいろありますね。

それらの考え方、経営に関することなどを皆川氏が語っています。

ご本人が陸上(長距離)をやっていたこともあり(しばしば陸上に例えてお話される)、長いスパンで捉える・考えるということに長けた人だな、と思いました。


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印象に残ったところ

労働の本質は「働いて嬉しいという記憶をもつこと」 

何のために働くのか、という問いに対しては様々な答えがあると思います。

お金のため、やりがいのため、家族を養う……etc
何がメインかは人によって異なると思います。

皆川氏によれば、

労働の本質は働いて嬉しいという「体験の記憶」を持つことにある。

川島蓉子、皆川明『Hello!! Work 僕らの仕事のつくりかた、つづきかた。』P.76

 
少し詳しく説明していきます。

皆川氏は「人が一生をかけて心に持ち続けられる資産は「記憶」しかない(P.31)」といいます。

 手に入れたものより、体験した「記憶」の方が人生にとっては大切なことで、その人の人生を決めているのです。
 少し極端に言うならば、人は「記憶」をつくるために生きていると言っていいのかもしれません。
 なぜかというと、人生を振り返る時には、必ず「記憶」が介在しているから。そして「記憶」とは、時間が経ってより豊かに熟成していくものだから。
川島蓉子、皆川明『Hello!! Work 僕らの仕事のつくりかた、つづきかた。』P.30


たしかに、そのときどきの感情は、一時的だったり、仮に長く続いたとしても少しずつ変遷していきます。そして、時間とともに「あれは悔しかったなあ」とか「あれは楽しかったなあ」と「記憶」に収束しますね。

人生を振り返るときには必ず「記憶」が介在しているというのも「(これまであまり気にしていなかったけれど)その通りだな」と思わされました。

「記憶」なので、必ずしも「事実」ではないのもポイント。
「記憶」は思考と事実がくっついたものなんですね。
ゆえに、後になって「あのときは辛かったけれど、結果的に後で役に立った」となる可能性もある。

ということはつまり、「あれは良かった」という記憶を積み重ねるように日々を生きていけば、最期に自分の人生を振り返ったときに「幸福であった」ということに結びつくのかな、と思います。

そして、人間は、起きている時間の半分くらいは働くわけなので、仕事に喜びが伴うかどうかで、充実度が変わってくるわけなんですね。

でも、仕事には辛いこともある……

・心に持ち続けられる資産は記憶
・仕事を通して喜びの記憶をつくる

ということには納得。
一方で、「そうはいっても、仕事にはキツイ面がある、ときにはそっちのほうが大きいよね」とも思いますよね。

本書でも、聞き手の川島氏が「仕事には苦しいことがたくさんあってすべてを喜べないのですが……」的に追及しています。

それに対しては

陸上競技では、選手は常に、きつさと喜びの双方を感じながら自らを鍛え、成長していく。そこは仕事も同じと思い、やってきたところがあります。

川島蓉子、皆川明『Hello!! Work 僕らの仕事のつくりかた、つづきかた。』P.37


という説明でした。
きついことはもちろんあるけれど、それを乗り越えたら得られるものがあるからやる、というようなことですかね。

この部分を読んでいて、聞き手の川島氏のいう「きつさ」と皆川氏のいう「きつさ」の質が微妙に異なるのではないかなーと思いました。

皆川氏の「きつさ」は目的地がわかっていて、そこに向かってひたすら走るときのきつさをいっているのだと思います。

一方、聞き手川島氏の質問から私がイメージした「きつさ」は、目的地がぼんやりしている(あるいはコロコロ変わる)上に、そこに至るまでの道もあやふやで、迷いながら走ることのきつさ、です(※あくまで私のイメージで、聞き手の川島氏がそのように発言しているわけではありません)。

安全な明るい道を走るときの「きつさ」と、どこに通じているかわからない暗い道を走るときの「きつさ」。

走る距離が同じだとしたら、行先不明の暗い道を走るほうが消耗する気がします。

なぜ、安全で明るい道と、危険な暗い道があるのか。
結局本人の「納得度」なのかなと思います。

皆川氏の場合は、そもそもの職業選択の場面において「この道でいく」という強い決意があったそうです(やめるという選択肢はない)。
そこまで強い決意ができるということは、自分のことをよく理解していた、ともいえるかもしれません。

一方、私などは若い頃、「自分が何をしていきたいのか」がイマイチわからなかったんです。わかっていたのかもしれませんが、「でも、あれは親が気に入らないから」「でも、これは社会的にあまり認められないから」といって選択肢から外してしまい、自分と向き合うことを怠ったような気がします。

その結果、一生懸命働いていても、心にはいつも「ほんとにこれでいいの?」という疑念が湧いていました。

常に疑っているわけですから、仕事を通して得られる喜びなんて感じる余裕がなかったですね。むしろ、辛くて仕方がなかった。

「自分はこれでいくんだ!」と確固たる決意ができるほどの仕事を見つけること、それ自体が良い記憶を積み上げるための第一歩といえるのかもしれません。

もちろん、人によっては「なんとなく続けているうちにいつの間にか「これだ!」となっていた」というケースもあるでしょう。

「これだ!」までいかずとも、現実的な選択肢を考えて「まあ、これでなんとか折り合いをつけるしかない」という人のほうが多いのかもしれませんけどね。

ともあれ、「やめるという選択肢はない」と決意できるほどの分野が見つかり、それを仕事にでき、結果も出している、というのは、(もちろんご本人の才能や努力あってですが)うらやましいなと思いました。


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おわりに

ファッション業界のサイクルがはやすぎて、売れ残りの服をどうするかとか、環境的にどうなんだとか、実は長年くすぶっていたけれどあまり表に出てきていなかっところを、皆川氏は早くから考えていた先見性がすごいのだと思います。
あとから、時代がフィットしてきた感じですよね。

「センス」ももちろんあるでしょうけど、やっぱり自分の仕事について「これでいく(やめる選択肢はない)!」というほどの真剣さが、結果に結びついている気がしました。

かといって、「これでいく!」というほどのものがないからといって何もしないと「記憶」も積みあがらないので、今、目の前にあることをコツコツやるしかないのですね。


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