一旦は母と距離をとることに成功した私ですが、ここのところ「介護どうしよう」という恐れを抱いています。
母はもともとセルフネグレクトの傾向や、性格上の問題があり、さらに現在は難病を抱えていますので、一人では生活できない状態です。
すでに介護保険制度にもお世話になっていますし、怒りつつも伯母が世話を焼いてくれたり、父が離婚せずに同居してくれているため、私は疎遠状態を続けていられますが、実家はすでに崩壊し始めている模様。
今後、私はどうしていったらいいのか。
絶縁までするレベルですから、今更母と同居して云々なんてことはまず考えていません。
基本的にはできるだけ行政に力を借りるつもりです(可能ならば一切関わりたくない)。
でももし、突然伯母が母を連れてきて「あんたが面倒みなさい、娘なんだから!」と言い、自宅の玄関前に母を置いていったら、私は具体的にどうすればいいのか(伯母は高齢ですが、異常に行動力があるのでやりかねないのです。現住所は教えていませんが、親であれば子の住民票を閲覧できるので、辿ることは可能)。
一応、いろいろ知識をつけておいたほうがいいな、と思い、この本を読みました。
寺田和代『きらいな母を看取れますか? 関係がわるい母娘の最終章』主婦の友社(2020)Kindle版
どんな本?
まさに私のような、「一旦は母親と距離を置いて自分の人生を始めたけれど、介護問題をきっかけに悩みが再燃……」という人に向けて書かれた本です。
著者の寺田氏ご自身もAC(アダルトチルドレン:現在の生きづらさが親との関係にあると自認した人)当事者。
ご本人の家庭環境も少しお話されていますが、「壮絶」のひとことでした。
ライターとしていろいろな介護現場を取材してきたという経験もある方です。
そんな著者が
親との関係に困難を抱えた人たちは、老親介護という現実をどう受け止め、どんな選択をするのだろう。
寺田和代『きらいな母を看取れますか? 関係がわるい母娘の最終章』主婦の友社(2020)Kindle版 位置No.47
というモチベーションで、6人の当事者(全員女性)に話を聞き、どう乗り越えていったか、あるいは、どう乗り越えようとしているか、ということが書かれています。
また、カウンセラーの信田さよ子氏(『母が重くてたまらない―墓守娘の嘆き』で有名)に、専門家の立場からの意見も聞いています。
さらに、法律的な観点からは、弁護士の松本美代子氏に話を聞いています。
「親の扶養義務」についてや、親から裁判を起こされたら……等、わかっているようで、実はよくわかっていなかった点を確認できました。
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感想
対応方法はそれぞれ
母との関係に悩んできた当事者6人のストーリーは、読んでいてもう、胸がつまって辛かったです。
「うわあああああすごいわかるー(涙)」的な共感もしますし、「こっ、これもひどい……」と愕然としたりもしました。
(ある程度元気があるときに読まないと、つらすぎて夜眠れなくなってしまうかもしれません)
やはり、関係悪化までにはそれなりの事情があってのことなのだな、と思い知らされました。
さて、肝心の「関係の悪い親の介護をどうするか」という問題ですが、本書に登場する当事者6人の例は、多種多様でした。
「両親自ら、ケア付き高齢者マンションに入った」という方もいれば、
自分が看るしかないと二か月同居したけれどやっぱり無理でもう関わらないと決めた方もいますし、
離れている間に心の変化があり、近くの施設に呼び寄せたという方も。
もちろん、考え中というか、正直答えが出ない、という人も。
全体の傾向としては、行政を頼り、可能な範囲でお金も使って、「できる限り距離をとる」というのが総意かな、と感じました。
ただ、一つ気になったのは、親自身にお金があるケースはいいけれど(本書に出てきた当事者のうち、過半数は親自身がある程度のお金を持っていたというケースです。ご本人の経済状況をも含めると、6人中5人は金銭的には困っていない模様)、「親にも自分にもお金がない場合はどうしたらいいんだろう……」と。
自分のお金がないことに関しては、自分の責任ではもちろんあるのですが、親に無心されているうちに、バリバリ働く気力がなくなってしまったというケースは、AC当事者にはけっこうあると思うので。
そうでもなくても、進路や結婚などで親が邪魔してきた結果、やりたかったことができずに、やりたくない仕事をしぶしぶやっているから収入面もイマイチというケースも多いと思うのですよね。
健全に育った方からすれば「そんなの自分の好きにすればよかったのに」「金の無心なんて断れば済む話」「自分の責任」となるのでしょうけれども、子供のうちから支配されていると、そういう正常な考え方すらできなくなっているのです。
生活保護など、セーフティネットの適用になるレベルなら、逆になんとかなるのかもしれませんが、「適用にはならないが、生活はカツカツ」みたいなケースが実際には多いのではないかと。
介護認定なんかも年々厳しくなっていますから、お金がなければどうしても家族のだれかが手を出さないといけないのが現実ですし。
そこらへんの、具体的な事情については書かれていなかったので、現実的なことを言うと、「お金がないとどうしようもない」が現状に近いのかな、と思いました。
「よし、じゃあ、バリバリ働くぞ、お金貯めるぞ」となるかというと、これがまたそう簡単ではない(心理的、体力的、社会的さまざまな理由で)ことではないのですけれどもね……。
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専門家のコメントが非常に参考になる
本書のいいところは、体験談のみにとどまらず、専門家へのインタビューも記載されているところ。
カウンセラーの信田さよ子氏は、母娘問題の第一人者ですから、「娘側の気持ち」や「現実」を非常によく理解されているな、と思います。
信田氏のコメントでよかったところを引用します。
どうして一旦は距離を置いたのに、介護などを機に悩みが再燃しがちか、という質問に対しての答え。
“弱者”になった親を否定したり遠ざけたりすることは人間としての良心、良識、ヒューマニズムを自ら踏みにじる行為なのでは? そんな自己嫌悪、自己批判が、良識あるまともな人ほど湧いてきてしまうからでしょう。
寺田和代『きらいな母を看取れますか? 関係がわるい母娘の最終章』主婦の友社(2020)Kindle版位置No.1400
あー、たしかになあ、という感じですよね。
割り切ったつもりでも、割り切り切れないというか。
父や伯母が母のことで苦労しているのを見ると「私だけ楽していていいのだろうか」、ひいては「私だけ幸せになっていいのだろうか」という罪悪感が沸いてしまいます。
(罪悪感に関する参考記事)
これらの本を読んで、罪悪感は持たなくてよい、と納得したにも関わらず、しばらくすると罪悪感が自動的に出てきてしまいます。
子どものうちに「うまれてすみません」的な罪悪感を植え付けられているので、それがいまだに抜けていないのだろうと思います。
そもそも、母が私をコントロールするときの手法が「罪悪感を刺激する」でしたしね。
と、考えると、ここで、罪悪感に基づいて行動するのは危険であると気づきました。
信田氏もこのように言ってくれています。
どんな人も、人生の優先順位で最初に挙げるべきは親ではありません。自分の人生です。自分を苦しめた母(親)との関係を時間と労力をかけて整理し、ようやく距離がとれたからこそ、今ここに、こういうあなたがいるのであって、母の要介護で再びその距離を縮めてしまって果たしてその後の暮らしや人生に平穏が保てるのでしょうか。
保てる自信がないのなら、やっぱり距離をとりつづけることが“正しい”選択だと思います。繰り返しますが、大切なのは世間の常識でも評価でも親の人生でもなく、自分と次世代の子どもたちの人生です。
寺田和代『きらいな母を看取れますか? 関係がわるい母娘の最終章』主婦の友社(2020)Kindle版 位置No.1532
「親を看るのは当然」「育ててもらったのだから」「いい加減、大人になったら? もう、いい歳なんだから」などなど、まだまだ社会(というか親戚とか)からの圧力を感じます。
だから、下記のように言ってもらえると、ホッとしますよね。
そんな関係になったのも、もとはと言えばそれだけのことを母が娘にしてきたからです。そこまで追い詰められ苦しんでいる娘たちは、なにも自分のわがままや身勝手から訴えているわけではありません。
寺田和代『きらいな母を看取れますか? 関係がわるい母娘の最終章』主婦の友社(2020)Kindle版 位置No.1554
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法律的な部分も押さえておきたい
「なるべく距離をとったまま過ごしたい」と思っても、「親の扶養は義務」と聞くと、「逮捕されてしまうのでは?」とか「訴えられるのでは?」などと思ってしまいますよね。
本書では、弁護士の方が、「罪にあたる可能性があるのはどんな場合か」や、「親に裁判を起こされたらどういう経緯をたどるのか」といったことが丁寧に説明されています。
親子関係で悩んでいる方は、ひととおり目を通しておいたほうがいいかな、と思います。
なので、詳細をここで紹介することはしませんが、一つ覚えておいていただきたいのは。「親の扶養は義務」というのは、法的にいえば「金銭面」であり、同居などを強制するものではない、ということです。
あくまで「子に余裕があれば経済的援助する必要がある」ということです。
私は伯母から、「(母に出す)金がないのなら、他の稼げる仕事にしろ」とよく言われてきたのですが、そこまでは強制されないというわけです。
法律的にも、「親のために自分の人生を破壊させる必要はない」ということです。
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おわりに
「どうしようどうしよう」と心配しているときは、悪いほうに考えてしまうものですよね。
私もここのところつい、「私がなんとかするしかないのだろうか……しかし母の面倒を看るということは、私にとっては「精神的な自殺」に相当する……でも、伯母も父も困っているし……」とぐるぐるしていたのですが、本書を読んで少し冷静になれました。
迷いそうになったら、信田氏の言葉をかみしめたいと思います。
母の要介護で再びその距離を縮めてしまって果たしてその後の暮らしや人生に平穏が保てるのでしょうか。
寺田和代『きらいな母を看取れますか? 関係がわるい母娘の最終章』主婦の友社(2020)Kindle版 位置No.1532
(信田氏の『母が重くてたまらない 墓守娘の嘆き』も持っているので、また読み直そうと思っています)